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2014.10.15
Twiggy Twiggyに寄せて–片寄明人


佐藤奈々子さんから届いた新曲のタイトルを見て驚く人も多いだろう。「Twiggy Twiggy」そう、あのピチカート・ファイヴ「トゥイギー・トゥイギー〜トゥイギー対ジェイムズ・ボンド」のセルフカヴァーだ。(※注1)
そのあまりのキャッチーさで一度聴いたら頭から離れない「トゥイギーのミニスカートで、トゥイギーみたいなポーズで♪」という呪術的で中毒性あるフレーズ。そして、それを歌うツイッギー(※注2)そのままにスレンダーな野宮真貴さん。
たまたま奇遇な縁で彼らのレコーディングに参加した経験こそあれ(※注3)熱心なピチカート・ファイヴの聴き手だったとは到底言えない自分にも忘れがたい、90年代東京ミュージック・シーンを代表する名曲である。
60年代スウィンギング・ロンドンの象徴的モデルであるツイッギー。彼女の名前を知らない若い子もきっと写真のひとつくらいは見たことがあるだろう。その横分けショートカットの少女はいまだアイコンとして、Tシャツにポスターに、様々な形で世界中に生き続けている。
そんなツイッギーを洒脱の極地とも言えるほど粋な表現で歌詞に織り込んだのがこの曲。正直に告白すると、作詞が佐藤奈々子さんだとの認識はあったものの、作曲はてっきり小西康陽さんだとばっかり思い込んでいたのだから自分もいい加減なものだ。その後に小西さんが連発したヒット曲からも僕はこの曲と同じ呪術的なリフレインをいつも感じていたから、すっかり思い違いをしていたのだろう。
最近になって知ったことだが、実はこの曲、野宮真貴さんがピチカート以前、ソロとして1981年にリリースしたデビューアルバム「ピンクの心」のために佐藤奈々子さんが書き下ろした曲だったのだ。奈々子さんがリチャード・アベドンの写真集にあった、ツイッギーと猫がジャンプしている有名な写真を見ながら、ふと口ずさんだ歌、それが「ツイッギー・ツイッギー」になったとのこと。
彼女が作詞家として参加したムーンライダーズの名盤「マニアマニエラ」での作品を象徴するような一節「バラがなくちゃ 生きていけない」も然り、これぞまさにキャッチ・フレーズというべき磁場のある言葉を生み出す詩人としての才能に、そして30年以上経っても色褪せることがまったくない普遍的な言語感覚には心底感服させられる。
ちなみに当時のことを野宮さんはブログでこう語っている。「何を隠そう、私はデビュー前のアマチュアバンド時代にSPY(※注4)の楽曲をコピーしていたほどのファンでした。佐藤奈々子さんの作る曲、歌詞、声、歌唱法、その世界感が大好きでした。私のデビューアルバム『ピンクの心』では、のちにピチカート・ファイヴがカバーして世界でも有名になった曲「Twiggy Twiggy」の作者でもあります(同アルバムには「17才の口紅」、「絵本の中のクリスマス」という、可愛らしい曲も提供してくれました)。私の歌手生活30年の代表曲を作ってくれた方ですから、とても大切な人です。当時のレコーディング風景を今でも覚えています。奈々子さんが作曲したメロディーを口ずさみ、プロデューサーの鈴木慶一さんがピアノでコードをつけていく静かな作業。それを小さなカセットデッキに録音するのだけど、時折、奈々子さんが手首につけていたいくつものバングルがカチャカチャと音を立てて…。息を殺して、ドキドキしながらその場にいたのを思い出します。」
今このオリジナル版を聴き返してみると、プロデュースを手がけた鈴木慶一さんの色濃いザ・ビートルズ〜XTC〜ムーンライダーズ的なニューウェーヴ・ポップスに仕上がっていて、なるほど、元々はこんな曲だったのか!という新鮮な驚きがある。
対して10年後のピチカート・ファイヴ版では、ラロ・シフリン「The Man From Thrush」やジミー・スミス「The Cat」などを下敷きにしたと思われる60年代のMod Jazz的なブレイクビーツを纏い、歌詞もオリジナルと違い「トゥイギーのミニスカートで、トゥイギーみたいなポーズで♪」というフレーズに重点を置く形で再構成されている。その効果は絶大で、よりマントラのような呪術的なキャッチーさが増し、この曲を名曲へと押し上げたと言っても過言ではないだろう。
その3年後、1994年にピチカート・ファイヴはマタドール・レコードから全米デビュー、この曲を含む編集アルバム「Made In USA」は全世界で20万枚以上のセールスを記録し、中でも「Twiggy Twiggy」はとりわけ人気の高い1曲となった。海外で僕が東京から来たミュージシャンだというと、音楽好きの人からはピチカート・ファイヴの話題が出ることも少なくないが、その時に誰もが口にするのは「Twiggy Twiggy」だ。そのくらいにこの曲は世界中で愛されている。
 名作「M★A★S★H★」で有名なロバート・アルトマン監督が1994年に公開した映画「プレタポルテ」でローリング・ストーンズやU2と並んでピチカート・ファイヴ版「Twiggy Twiggy」が使用されたり、2000年にはキャメロン・ディアスやドリュー・バリモアによってリメイクされたあの大人気映画「チャーリーズ・エンジェル」の劇中でも、坂本九「上を向いて歩こう(英題 SUKIYAKI)」と共に使われたことはその証と言えるだろう。ある意味で海外から見た東京を象徴する1曲とも言えるのがこの「Twiggy Twiggy」なのかもしれない。
さぁ、そして作者である佐藤奈々子さん自らが初めて歌った今回の「Twiggy Twiggy」だ。昨年デュオとして奈々子さんと二人で初の全国ツアーにも出た盟友ギタリスト長田進さん、そして僕のバンドGREAT3から白根賢一をドラムに迎えレコーディングされたこの「Twiggy Twiggy」。ローリング・ストーンズ〜プライマル・スクリームを彷彿とさせるダンサンブルなビートとブルージーなギターフレーズ、そこに絡みつくトランペットの音色が実に効果的で胸が高鳴る。サウンドプロデュースを手がけた長田進さんならではの、洒脱かつロックンロールな仕上がりが最高にスリリングで嬉しい裏切りだ。ちなみにこのホーンを吹いているのは、あのチェット・ベイカーから愛用のトランペットを死の直前に贈られたトランペッター、ヒロ川島さん(佐野元春ファンの人にはあの初期の大名曲「情けない週末」で涙が出そうなほどに哀愁あるフリューゲル・ホーンを吹いていた人だと紹介したい)によるプレイだ。歌詞の構成は基本的にピチカート版を踏襲し、その呪術的な言葉のリフレインがこの強靱で腰に来るビート&リフと相まって新たな境地を切り開いている。
そして何より特筆すべきは唯一無二である佐藤奈々子さんの声だ。彼女の歌声はウィスパーヴォイスの元祖としてその後、野宮真貴〜カヒミ・カリィ〜やくしまるえつこ、と今に至るまでその系譜が受け継がれるスタイルだが、その力を抜いた歌声から、とかく雰囲気もの、場合によってはヘタウマなどと誤解されやすいことに僕は長年納得がいかない。
先に名前を挙げた全員と僕はレコーディングやライブなどで何らかの共演、または近くでその歌声に接したことがあるのだが、皆さん強烈に歌が上手いのである。特にピッチ感、リズム感に天才的とも言える才能を持ち合わせていることが共通項だろう。これには共演したミュージシャン、エンジニア、全員が同意してくれるはずだ。むしろウィスパースタイルとはそのくらいの個性と才能がなければプロとして確立することが難しい分野だともいえるのだ。
奈々子さんの歌もデビュー当初から信じられないほどに進化している。一緒に演奏してみれば、ライブでその声を目の当たりにすれば、誰もがその凄さに震えることだろう。声の強弱、息を抜くタイミングひとつ取っても絶妙としか言いようがないのだ。その鳥肌が立つほどの魔力がこの「Twiggy Twiggy」には見事に封じ込められ、ピチカート版とも違うセクシャルなダンス・チューンへと生まれ変わらせているところが本当に素晴らしい。さらに野宮真貴さんがゲスト参加して華を添えていることにも注目だ。
 佐藤奈々子さんの経歴を見ると、佐野元春さん、加藤和彦さん、ムーンライダーズ、コクトー・ツインズのサイモン・レイモンド、カメラ=万年筆、etc…いつの時代も才能ある音楽家がその魅力に引き寄せられて彼女の元に集まってきたことがうかがえる。奈々子さんは「わたしは譜面も読めないし、楽器だってほとんどできないの」といつも謙遜して言うけれど、そんなものを超越した音楽的魅力がセンスあるミュージシャン達を惹き付けてやまないのだ。
最近は下北沢の親密な空間「LOWN」を拠点に様々なゲストを招いて定期的にライブを続けている奈々子さん。そこではまだ音源化されていない数々の新曲も聴くことができる。この「Twiggy Twiggy」をきっかけに新たな佐藤奈々子の音楽が次々と世に放たれることを僕は願うばかりだ。
そして最後に、、、2012年、彼女の息子であるjan(ヤン)の才能に惚れ込んだ僕は、奈々子さんに一言の相談もなしに彼をGREAT3のメンバーに引きずり込んでしまった。。。でもそれを咎めるどころか、いつも影ながら応援してくれる姿に心から感謝しています。本当にありがとう!また僕らのために美味しいピザを焼いてくださいね。 
  片寄明人 GREAT3, Chocolat & Akito
 
 
注1:1991年にリリースされたピチカート・ファイヴのアルバム「女性上位時代」収録曲。
注2:1960年代スウィンギング・ロンドンを象徴するモデル。ショートカットで華奢な体型からツイッギー(小枝)の愛称で世界中で大人気を博した。野宮真貴さんのオリジナル版では「ツイッギー」、ピチカート版では「トゥイギー」と表記されている。日本での一般的な名称は「ツイッギー」なので、本文では主にこちらを用いた。
注3:1996年に日本では「フリーダムのピチカート・ファイヴ」、欧米では「sister FREEDOM tape」として発売されたアルバム。東京の大久保にあるフリーダム・スタジオがコンセプトのひとつであり、隣のスタジオでレコーディング中のミュージシャンを誰でも良いからゲストに呼ぼうということになったらしく、たまたま2ndの「メタルランチボックス」レコーディング中だったGREAT3から僕に白羽の矢が立った。その場で小西さんから「何でもいいから思いつく、好きなコード進行でアコギを弾いてくれ」とリクエストされ、僕が即興で弾いたジェイムス・テイラー風の分数コード進行を元に作り上げられたのが「Snowflakes」「Cornflakes」の2曲である。
注4:1980年、加藤和彦プロデュースで1枚の作品を残したニューウェーヴバンド「SPY」。佐藤奈々子さんはボーカルとして参加していた。2009年に未発表曲とライブ音源を追加して再発され話題に。

お知らせ

★ 2014.10.5
Twigggy Twiggy by nanaco
i-tunesで配信しています。
youtubeもかわいいのでぜひ見てみてください。Twiggy Twiggy

● 2011.2.25 大山高さんの遺作です。ヤンが主人公です。
Jan / lovely strangers 〜さよなら僕の友達〜 (photographs by 大山高)


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